オズ・ノイのバンド・プロジェクト、Ozone Squeezeのアルバムから、ボブ・マーリーのカヴァー〝Waiting in Vain〟を聴きました。
レゲエっぽさが消えて、まるでポップスのようだけど、この曲の持つ切なさみたいなものがディフォルメされているような気がして、気に入っています。
オズ・ノイによると、ヴォーカルのレイ・ディットゥルスウェイのことは、前から知っていた訳ではなく、YouTubeで見つけて、あまりのパフォーマンスに圧倒されて声をかけたとのこと。時代ですね。
こちらがオリジナル。
1977年のアルバム『Exodus』に収録されています。
なぜこの曲に引っかかったかというと、2年前に演奏をしたからです。
私の受けているレッスンでは、自分で曲を選ぶことになっています(まぁ、別に自分のレベルに合わせて先生に選曲してもらってもいいのですが、せっかく「自分で持ってきて」と言われているのだから……。果たしてこの曲が自分のレベルに合っているのか、またどうすればできるようになるか考えながら選ぶのも勉強、ということで)。
当時、何の曲をやろうか考えていたときに、学生のときによく聴いていた、この曲が思い浮かんだのです。
といっても、当時聴いていたのはオリジナルではなく、リー・リトナーのカヴァーでしたが……。
ウェス・モンゴメリーのトリビュート・アルバムですが、なぜかこの曲が入っていました(曲中ではオクターヴ奏法を駆使していますが、全体的にスムース・ジャズっぽい、口当たりのいい感じです)。ヴォーカルはマキシ・プリースト。懐かしい名前です。。
シンプルながら、というか、シンプルだからこそ、サビに移行するところが気持ちいい。そのサビも1回きり。あとは延々とⅠ→Ⅳのメジャー7thを繰り返す。これはできるだろう、と踏んだのですが。
「こういう曲はコードはシンプルだけど、そのぶんいろんなリズムを取り込んで遊ぶんだよね。そこがこういう曲の醍醐味であり、かつ難しいところでもあり」と先生。
なるほど。自分が想像するのと実際が違うというのを実感するのも大事なこと。いろいろリズムを変えたカッティングを提案してもらったけれど、まずそもそもカッティングなんてしたことがない。。なので一番簡単な、無理のない(つまり面白味に欠ける……)バッキングをまず覚え、歌で勝負(?)することに。
君の愛を待つのに疲れてしまった。僕はもう3年も君のドアをノックしているのに、君は僕のことをからかったりしてる。だけど待つのもそう悪いものじゃない。夏が来ても冬が来ても、僕はずっと待ち続ける。君の愛は僕の悲しみを取り除いてくれる。だけど君は僕の愛から逃げているんだね……。
超ざっくりとこんな感じの、恋愛の気持ちの浮き沈みというか、心の揺れをシンプルに表した歌詞。そこにラスタファリズムもうまく投影している感じがする。
まぁ、僕の場合は純粋に恋愛の歌として歌うことにして。
しかし、その歌がまた。。
自分の声域から微妙に外れる高い音が歌いだしのところにあって、そこをクリアしないと、なんともカッコ悪い。逆に言えば、その出だしがうまくいけばなんとかなるだろう。
ということで、そこを重点的に練習し、なんとかおかしくない感じに仕上げて迎えた本番。
このときは、ほかの生徒さんたちと一緒に出る発表ライブに僕がスケジュールの都合で出られず、なんと先生のライブの中にするっと入り込んでやることに。発表会の要素はなし。普通にライブです。でも、実際にステージに立ったら不思議と緊張はしなかった。
そんなこんなで、僕の〝Waiting in Vain〟が始まりました。4小節のイントロの後、歌へ。歌いだしが大切だぞ、と自分に言い聞かせて。
と、いざ歌いだしたら、これが綺麗すぎるくらいにうまくいったのです。
やった! これって、自分史上最高の歌いだしじゃね!?
と、そう思った瞬間。
なんと、次の歌詞が、すっぽりと抜けてしまい、出てこなくなってしまいました。今までそんなことは全くなかったのに……。歌が入らない空白の時間。なんてこった……。天国から地獄へ、とはまさにこのこと。。
音楽を掴もうとして手を伸ばし、やっと捕まえた瞬間に、指の間からするすると逃げてしまったような。そんな感覚。先日の記事から言葉を借りれば、歌いだしがうまくいったところで、「このまま、いや、もっとうまくやろう」という邪念が生まれてしまったのでしょう。
それ以来、歌詞が飛ぶような致命的な失敗はありませんが、歌いだしがうまくいったときの、目の前がパッと開けるような、夢のような瞬間も訪れません。
まるで、この曲の歌詞のように、待っていてもやってこないし、こちらからノックしても、逆に遠くに逃げていってしまう。音楽とは、なんて気まぐれなのだろう。
でも、だからこそ、やめられない、のではありますが……。
今日も、おそらくはやってこない音楽の瞬間を信じて、練習するとしよう。そうしよう。。
追記:
〝Waiting in Vain〟、映画『セレンディピティ』でも使われていたんですね。