案内されたのは、
まるで屋根裏のような、細長い部屋で、
歩くと、ぎしぎしと床が軋んだ。
夏の陽は長く、もう夜の8 時を過ぎているのに
暗くなる気配はない。
窓が開け放たれているのは、エアコンがないからで、
外を見下ろすと、下は中庭になっていて、
向かいの部屋では、
中肉中背の、頭の禿げあがった初老の男が、
ひとり、煙草を呑んでいるのが見えた。
上半身は裸で、
部屋の中の、どこか一点をじっと見つめ続けている。
そして、時々思い出したように、
口から白い煙が吐き出されるのであった。
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このうえなく、甘美で、
手に取りたくなる欲望を感じさせるのであった。
つまならい、ここに書く気にもならないくらい
本当につまらない理由で、
開演までに間に合わなかった(T さん、ごめん、、ごめんよぉ…)ので、
楽しみにしていた、「カレリア組曲」は、
扉の外から、そのエンディングを聴くことに。
漏れ出る響きは、想像力をかきたてる。
パリ管弦楽団の、来日公演。
来日公演は、まだまだ続く。
明日は横浜だ。
詳しくは、こちらを。
ヤルヴィといえば、
いまやその去就が最も注目される
指揮者のひとり。
2010 年から、
パリ管の音楽監督を務めている。
エストニア出身の指揮者の父ネーメは、
エーテボリ響とのシベリウス全集の録音でも知られていて、
それもあって、「カレリア」はとても楽しみだったのだけれど、
まぁ、仕方ない。。
気を取り直して、次のリスト。ピアコン2 番。
ピアニストのヌーブルジェは、20代にして早くも大物感が漂い始めている。
アンコールのラヴェル、よかったな、、
緻密にして、ダイナミックに “決めた”。
昔、CD でちょろっと聴いただけだったけど、こんないい曲だったとは。
この日最大の収穫だった。
ヤルヴィの指揮は、その、武道でもやっていそうな、引き締まった佇まいと相まって、
寸分の狂いもないように見えた。
そして、奏者たちの端正な演奏が積み重なると、
とてもお洒落に聴こえたのだった。
まさに麗しい構築物、といった印象で、
再現芸術とはかくも美しいものか、と改めて思い知った気がした。
そう、再現芸術。
前に、音楽は聴くのもいいがやるほうが楽しい、みたいなことを書いたが、
これは別物。
曲の世界に浸るしかない。
こんなの、人が一生かかっても出来るかどうかわからない代物だし。
…………。
なんか疲れたな。。
よし、休憩!
ところでさ。
よく、パリのものとかを表現するのに、
「エスプリの効いた何ちゃら~」みたいな言い方するけど、
エスプリとか表現されるものって、一体どんなものなんだろ??
オレ、わがんね、、
この、パリ管のようなお洒落な演奏のことを言うのだろうか?
自分は今まで何度かパリを訪れたことがあるが、
その、最初の記憶が、冒頭の光景。
20年前に、姉に連れられるようにして(もろもろ手配係……)、
初めて訪れたパリの夜。。
こんなのも、エスプリって言うんかいね??
こんど誰か、教えてください。
そうだ。 忘れてた。。
7 月に出た前号で、
その、パリ管のチューバ奏者、
ステファン・ラベリにインタビューを、したのだ。
お洒落だけど、
マイペースな方だったな、、(笑)
自分で可能性を狭めるな、
オケに入れても入れなくても、
演奏の機会は、
自分で工夫して増やしていけ、
みたいなメッセージをいただいた。
公演では、曲の構成上、仕方ないが、
本編よりアンコールのほうが
彼の出番は多かった気がする。
パリは、2回ほど、取材もした。
が、パリ管の本拠地であるサル・プレイエルには
いまだ入れたことはない。
そのかわり、というわけではないが、
シャンゼリゼ劇場には入った。
名前は忘れてしまったのだが、、
室内オケと、
アレクサンドル・タローの共演。
モーツァルトを聴いた。
場内を立ち上ってくる音の芳香と、
タローのいままで聴いたことのないような
しなやかなピアノの音色が印象に残った。
ちょっと硬派な感じを漂わせていた
ヌーブルジェとは、対照的かな。
※どちらが良い悪い、ではない。印象の話。
こんなのも、エスプリって言うんかいね??
…………。
いよいよ疲れたので、結局、休憩のまま、今日はおしまい。。
続きは、(たぶん)明日。
週の真ん中・水曜日ですが、あと2日、頑張りましょう。
今夜も、皆さまにとって、素敵な夜になりますよう。。
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「私は寝るから、お前、外に出たかったら勝手に行ってきな」
と言われ、ひとり、外に出た。
ホテルの周りを一周し、凱旋門まで出かけた。
陽は傾き、ブルーの空を切り取るそのシルエットを見上げた時、
初めて自分はパリにやってきたのだ、という気になれた。
その帰り、ホテルの裏に、小さな商店があった。
その光に誘われるように「オルボワ」と弱々しくつぶやきながら入ると、
女主人が同じく「オルボワ」と返してくれた。
水より安い、ミュスカデのボトルを1本買い、部屋に戻った。
部屋では、姉はぐっすりと眠っていた。
ミュスカデをどうしたかは、もはや憶えていない。