40→70 ギターでデビューする!

ヤマザキです。40歳でギターを始め、8年目に入ってしまいました(2021年現在)。無謀にも70歳までにデビューするという目標を立てているのだが、はたして……? 普段はライター業をしています。

僕は音楽で誰かをストーリーの主人公にしてあげられるだろうか ―― カズオ・イシグロ「老歌手」とヴェネツィアの想い出

今年の 6 月、夫婦でイタリアを旅してきました。

ミラノから入って、次の滞在地として選んだのが、ヴェネツィアでした。

guitar-itsuka.hatenablog.com

 

もうとにかくどこを歩いても絵になって、絵になりすぎるので写真もほとんど撮らなかったのですが、その少ない中からの 1 枚。

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カナル・グランデを行く水上バスとゴンドラ、ぶつかりそうでぶつからない。

 

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サン・マルコ寺院からアドリア海を臨む。サン・マルコ広場にはカフェ・フローリアンをはじめいくつかのカフェがあって、カフェが雇っているのであろうバンドが、テラス席の客に向かって演奏している。バンドは同時に演奏しているけれど、広場が広いので、重なって聴こえることがない。

 

と、ここで、思い出した。

むかし読んだ、カズオ・イシグロの短編「老歌手」は、この街が舞台だったんだ。。

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』に入っています。

 

夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)

夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)

 

1 回読んだっきりで、そのままにしてしまっていたんだけど、あぁ、旅に持って来ればよかった、と思ったのでした。 

で、そのことをまた思い出し、、読んでみました。

 

元共産圏の国からやってきて広場のバンドで演奏をしているギタリストのヤン(ヤネク)は、カフェの席にアメリカの偉大な歌手、トニー・ガードナーを見つける。ヤンの母親は、ガードナーの大ファンで、西側のものが手に入りにくい状況でも彼のレコードだけは全部揃えてしまうほどだった。思い切ってガードナーに声をかけるヤンだが、ガードナーに意外な頼みごとを持ち出され……。

 

あぁ、こういう話だった。サン・マルコ広場や運河の情景も、やはり現地に行ってからだとすんなりと入ってくる。ちなみに、広場にいる複数のバンドについては「ちょうどラジオのダイヤルを回すような感じ」で「一つのバンドの音がフェードアウトしてから次のバンドが」聞こえなくなったら次のバンドのフェードインしてくる」と。うまい表現だなぁ。。

そして、彼の真骨頂ともいえるシュールな描写もあれ、割と素直に物語は終わりました。ヤンの母親が、物語の絶妙なスパイスとなって、胸をじわじわ締め付ける。。 

 

さて、読んで感じたこと。

ヤンのような演奏者は、いやがうえにも無数の人生との邂逅を繰り返しながら生きていかねばならない。広場にはここで出会う人、分かれる人、そして何度も顔を合わせる人、ただ通り過ぎるだけの人……。そのパワーを受け止めるたり受け流したり、あるいはこちらから力を与えることもひょっとして、あるかもしれない。とにかく、行き交う人を何らかのストーリーの「主人公」にするための技量が必要なんだろうなぁ。

僕はいま 1 年に 2 回だけだけど、ビールを飲む人たちの前で演奏をする機会がある。そこで僕は聴く人を主人公にさせてあげることができているだろうか。

テクニックとともに、そんな空気のつくり方も、演奏の技量のひとつなんだと思った次第。

 

guitar-itsuka.hatenablog.com

 

ということで。

とにかく練習を重ねるしかありません(結局行き着くところはここである……)。

 

ところで、この方(方々?)のブログは深すぎるほどの知見でこのお話を読み込んでいっている。ネタバレ云々もありますが、こういうのを拝見するととても勉強になります。

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